偶然この作品を知る。と言っても大津市に現在縁がある関係で必然的に個人的アンテナが立っており、大津市内の飲食店のSNSで紹介されていて目に止まったという具合。大げさに言えば人生何がきっかけで何に出会うか分からないもんだなとつくづく思う。おそらく大津市内に意識がなかった状態なら出会わなかったか、はたまた今後さらに話題になったときまで目にすることはなかっただろう。
ローカルテイストでアピールしているものの中心人物のキャラが立っているので、滋賀県に縁もゆかりもなくても十分に楽しめる作品となっている。「女による女のためのR-18文学賞」で大賞を取った「ありがとう西武大津店」を1話とする全6話構成。見事だったのはその連携具合である。どれも短編としても十分面白いのだが、5話までは中心人物である「成瀬あかり」は1人称ではないため彼女の心の内は分からない。最終話で初めて彼女の心が描かれる。
特に第3話の「階段は走らない」がおっさんホイホイとなっている。他の話は中二から高三までの成瀬あかりやその同級生たちの目線。3話だけが西武大津店閉店をなげく40過ぎのおっさんたちの話。私も子供のころから慣れ親しんだショッピングセンターが無くなる経験をしている。建て替えだったのでこの作品の登場人物たちほどの悲しみはなかったかもしれない。それでも徐々に解体されていく建物を見る切なさは何とも言えないものがあった。風船の販売機はその店舗にもあった。
同じく出生地は違えど現在滋賀県に籍を置く作家といえば、以前に書かせて頂いた今村翔吾氏がいる。おそらく現在宮島未奈氏とは10km圏内に住んでるのではないだろうか。彼の作品の「八本目の槍」に構造が似ている。第三者がずっと中心人物を語りだんだんと輪郭が見えてくる。そういえば石田三成と成瀬あかりはなんとなく似ているw 郷土の治安を考えているところやなんとなく我関せず的なキャラが。実はでもそうではなかったというところも。
正直に言えばもの足りない。中学生の成瀬あかりが出来上がるまでや、大学生以後の彼女の遍歴をまだまだ見たいのである。「天下を取りにいく」とはその予告と取っていいのだろうか。アニメやドラマにもなりそうだしヒットもしそう。なんせいまだに上映しヒットしている某バスケマンガの主人公も途中で坊主になってるので、何年後かには「成瀬あかり」はメジャーキャラクターとしての花道を歩いているかもしれない。そして三成の成しえなかった天下を滋賀から取ってほしい。何の?