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今村翔吾 八本目の槍 本の世界の救世主たれ

朝起きるとスマホの画面に話題のニュースで川本真琴の「サブスクというシステムを考えた人は地獄に堕ちてほしいと思っている」というツイートが表示されていた。

 

分からなくもない。なんとなく安倍元総理の国葬もあり「格差社会」という言葉が浮かぶ。CDまでの売り方はメジャーデビューしてヒットするまでは大変だけど当たれば大きい見返りがあるイメージ。むしろ格差業界? 一方サブスクは誰でもデビューは出来るけれど当たらなければ見返りが少ないイメージ。消費者的にはサブスクがありがたいだろう。だからこその現状。

 

アーティスト的にはどうだろう。高橋ジョージがロードの印税収入がヒット時16億で今でも毎年1,000万以上あると言っているが、それなら秋元康は歌ってもいないのに国家予算くらいになるんじゃないかと思うw 不労所得とえば聞こえが悪いけれど、昔からのこの業界構造がおかしいとも言えてしまう。でも夢もへったくれもなくなってしまうと良い作品が現れる頻度は確実に下がってしまう。今、各エンタメ業界がどうやってメシを食うかの1つの大きな過渡期に差し掛かっている。

 

音楽業界以上に転換期にきているといえるのが出版業界。こと書店に関しては21世紀になって何重苦といった状況だ。大元の作家や出版社は電子化により新しい販売ルートを確保しつつあるが、彼らを支えてきた取次や書店には何の恩恵もない。さらには活字離れにスマホの台頭、Aamazonの襲来にコロナ。町の小規模な「本屋」は淘汰されていった。アイデアで生き残る術はあるかもしれない。でも普通に営業してメシが食えないならその業界は終わっていると言えるのではないか。

 

そんな負け戦の大波に一人の作家が立ちはだかる。今村翔吾その人である。彼は家業のダンス講師を30才でやめて夢である作家として執筆に専念する。7年の間に数々の賞を受賞し今年遂に直木賞を受賞する。彼が子どもの頃にあった書店での本との出会い。彼の情熱の根源はそこにある。ある意味今年今村翔吾個人の力は示せたわけだから、あとは小説と本屋の底力を見せてやろうと考えているだろう。大阪の書店の経営も行いながら直木賞記念で全国47都道府県の書店や図書館、学校などへの行脚を決行。118泊119日271ヶ所目の山形県新庄市で先日ゴールを迎えた。

 

私も1ヶ所でお邪魔し講演とサイン会に参加させて頂いた。ギリギリの申し込みで特に募集人数の少ないサイン会はピッタリ定員に達していて、施設の人には状況次第と言われる。せっかく来て頂いてもし参加出来なかったら申し訳ないと気を使わせてしまった。なにせその日の今村氏のスケジュールを見ると、距離的に次の書店は間に合うの?といったタイトなものだったのだ。「幸村を討て」を持参して会場に向かう。行ってみるとサイン会は先着順で人数の余裕もあるらしく、同行者(嫁)も整理券をもらい講演会へ。個人的に残したい作品は文庫派なのでやっぱり新刊の文庫版「八本目の槍」と「塞王の楯」をその場で購入した。

 

会場によってはその地域の歴史にまつわるマニアックな話をされてきたらしいが、参加した講演では作家になったいきさつから直木賞受賞後のまわりの反応など、時代物にはあまり詳しくない嫁でも興味を持って聴ける内容だった。オフレコ的なことも織り交ぜてくれたので公表はしないが、直木賞への反応の地域差は面白かった。今村氏は完全に滋賀県に骨をうずめる気だw 我々の世代的には今村氏の父、克彦氏がメディアに多く出られていた頃を知っている。翔吾氏の文才だけではない、しゃべりや営業力は父親譲りだなあと思いながら聴いていた。

 

その後のサイン会。サインしてほしい本に整理券をはさみ順番を待っていた。書く本に合わせてサインペンを映える色に変えながら次々対応。脇に抱えていた幸村にもサインして頂き、塞王にはお願いしたメッセージまで入れてもらった。神講演で神対応。とても満足感でいっぱいの時間だった。隆慶一郎以来、歴史小説で全部読みたいと思わせる作家の登場にちむどんどんしている。そして全国の書店を救うことが出来るのか、彼の成しえる未来に期待が膨らむ。三成のような先見の明で本の世界は死んでいないことを証明してほしい。