Quinoss.com

物語の感想やニュースの意見等々を更新しています

監察医 朝顔 感想③ 物語の新スタイル

起承転結や序破急といった物語のスタイルがあるが、監察医朝顔は毎話そこを短くまとめてそのあとにもう1つのテーマである震災と家族の関わり方を描いている。事件を解決して口直し程度の後日談で終わるよりも物語の満足感が上がる。主人公を中心にまったりしたキャラばかりなので物語に悲壮感はないのだが、震災から8年経った今も苦しみの中にある人たちの心を、批判も覚悟で表現している制作陣の魂は伝わってくる。

 

今も見つかっていない妻を探す平。普段の彼は合理主義者を体現するかのような振る舞いなのに、このことに関しては義父の忠告にも耳を貸さず一心不乱だ。自分の行動が身内や愛する人の死に影響を与えたのだという後悔はたぶん時間は解決してはくれない。理屈では払拭できない後悔や悲しみに人は無力だ。今のところ私は近しい人の理不尽な死に直面したことはない。祖父母の死は少しづつ時間が癒してくれた。もしこれが災害や事件だったらそうはいかないだろうなとドラマを観ていて思う。

 

第4話は青酸カリ。法医学と震災・家族愛の2本立てドラマのためか法医学パートの内容が薄いなどという感想をしばしば見る。自分的にはそうでもなく、毎話合格点の満足感がありこの時間配分で素晴らしい密度だと思う。解剖描写や事件の背景などは極力簡素になっている為もの足りなさを感じるかもしれないが、肝心のミステリーパートも十分楽しめている。今回もまさかのテロ犯罪で驚かされた。医学生がガスの発生する室内へスマホを取りに戻ることには少し違和感があったが、そこまで大きなツッコミどころでもないかと思う。これが実は単純な理由ではない伏線だったら凄いけれど。

 

今回の月9は今まで観てきたドラマになかった感覚がある。ミステリー部分の内容の濃さやトリックに重きを置かず、法医学パート以外の場面のクオリティーでドラマ全体の雰囲気を作り出し説得力を生み出している。母を妻を娘を震災で亡くした家族が支え合って生きている様を、日常会話や新たに加わる家族を通して押しつけがましくない表現で描いている。朝ごはんの会話や祖父との電話の当たり前のありふれた内容が、悲しみが上辺で分かることではないことを伝えてくる。このクオリティーがメインの法医学ミステリーとともに両立していることに驚かされる。それによる物語の時間配分の斬新さから新鮮な感覚でドラマを楽しんでいる。そこまで衝撃的な展開があるわけでもないのに次週が楽しみで待ち遠しい。

 

そして今回も期待を裏切らず桑原君の万木家への介入は止まらない。フルスロットルで結婚・妊娠まできた。先に挨拶済んでて良かった。新たな家族が増えることで平と朝顔はどう変化するのか楽しみだ。それにしても4話で最も印象に残ったのは義父の柄本明が平に言い放った行方不明の娘を探す行為が迷惑だというセリフ。義理の息子にいつまでも未練がましく生きていることを心配しやめさせたいのだろうが、娘を愛してくれていることからの行為なので納得するまでやらせたい気持ちとが交差する。自分の気持ちは孫との電話で落ち着かせる。じいちゃんも頑張ってほしい。ひ孫の顔を拝めるのだから。