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半分、青い。感想⑦ 総括

 

「ひよっこ」の続編の発表があった。ツイート等を見ていると歓迎のコメントが一斉に発信されている。これが終了直後の「半分、青い。」だったらと思うといろんな意味で怖い。間違いなく歓迎一色ではないはず。制作陣は余力を残さずやりきったように感じるので続編の可能性は薄いと思うが。続編って本編がよかったと思っている人でも、制作してほしいかは分かれるところだと思う。ただ本当に必要ないと感じる人は無視すればいいだけのことなのでデメリットはないともいえる。個人的には作品によるとしか言いようがない。「ひよっこ」はありだと思う。新エピソードはいくらでも繋げられる気がする。「半分、青い。」は雨のメロディで終わりがきれいな気がする。主題歌とリンクしながら伏線も回収し、大きいテーマであろう「人生は考え方次第」という部分でも雨でも楽しめるという「半分、青い。」を象徴したものに仕上がっている。このあと鈴愛と律が結婚したかどうかという部分も各々が想像するくらいが丁度いいと思う。

 

 今回は落ち着いて最後の感想をまとめていきたいと思う。そのまえに過去のブログでも書いたけれど、私はほぼ朝ドラ初級者である。ひよっこの途中で目覚め、これくらい面白いものをまた観たいと思っていたところに半分青いが始まったのである。何せ長いので過去作も見てみたいものがあるが、割かれる時間のリスクが高いので手を出せないでいる。たぶん「ちりとてちん」「カーネーション」「あまちゃん」あたりは面白いのではないかと少し目にする情報で思っているのだが、リアルタイムで見ている朝ドラが面白くなかったらチャレンジしてみようと思う。ちなみに「まんぷく」はスロースタートな感じで段々面白くなりそうな気配。まだ判断は出来かねている。

 

朝ドラというのは毎日15分を半年という他のドラマにはない形態をとっている。これは制作者泣かせだとは思う。常に短いスパンで何らかの盛り上がりを作る必要があるため、全体としての盛り上がりと両方を考えないといけない。1つの物語としてバランスが良ければそれでいいと思うが、ただこの放送形態をとっている限りは視聴者からは毎日の盛り上がりを求められてしまう。ショートショートと長編を同時進行させるのは大変だろう。良い悪いは一概には言えないが「半分、青い。」は1話1話で爪痕を残そうとし過ぎているきらいがあったように思う。

 

鈴愛の行動は合理的ではない。鈴愛から出てくる言葉は全く知的ではない。しかし観ている者の心をエグる。しかも受取り手によって同じ言葉でも感動を呼んだり、落胆させたり、怒りを覚えさせたり別の感情をもたらす。ネットがなければここまで人によって見ているときの感情が異なっているとは気付かなかった。たしかに高校編突入の乱暴さには驚いた。下手したら律は死んどるしブッチャーも軽傷ではすんでない。キレると先輩だろうが師匠だろうが関係なく痛いところを突いてくるし、間違いなく手加減していない。誰も致命傷を負わなかったことは奇跡だと思う。そしてその致命傷をまぬがれた人たちはキャラクターが変わっていくのである。ユーコや秋風羽織、ボクテ、まーくん、涼ちゃん、津曲そして律。これは身体的には不完全となってしまったけれど生きるカタマリである鈴愛が、精神的に不完全な人々と出会うことで彼らを治癒していく話なんだと思う。主人公は全く変化しないw ハンデがあってあとさき考えない幼稚なキャラでこれからの成長を描いていく話だと見せかけてほとんど変わらないのである。鈴愛は最初から完全体。まわりが変えられていく。そしてそのラスボスが律。暖簾に腕押し糠に釘の強敵から、本音を言わす40年の物語。途中ステージの大納言編やセンキチカフェ編などがあったけれど、やはりティンカーベル編がドラゴンボールでいえばフリーザ編での盛り上がりだったと思う。そしてなんとなくフリーザと秋風羽織は似ている。

 

 永野芽郁が意図的に変えなかったのか監督や脚本家の指示だったのかは分からないが、年齢と見た目は変化させ行動や言動はある意味一貫させているところが新鮮でよかった。たぶん安藤サクラは変えてくると思う。物語と月日が進むならその方が自然だ。しかし16才も40才も常に刺激ある生活をしている鈴愛なら変わらない方が自然に思う。落ち着きと安定は似ている。一貫して不安定な主人公の話。そりゃあ見ていてイライラする。これを楽しめるかがこの物語の評価の分かれどころ。鈴愛は完璧には描かれていない。面白かった1例を挙げるとカンちゃんのいじめ問題。カンちゃんの普段の話し方から想像すると鈴愛は友達のような母親だ。対して津曲は息子に対して常に威厳を意識した行動をとる。嘘ばかりだけど。しかし学校での悩みについてカンちゃんは鈴愛に話せない。対して津曲は直接相談を受けている。この違いの答えはない。何でも話せる親子関係が最も正しいとは思わないが、少なくとも津曲は自分を助け船を出せる存在として息子に認識させていたということ。では鈴愛は間違っていたのだろうか。カンちゃんは大変な状況の母親にさらなる心配をかけたくないという優しさからの行動で、こちらも子育てとしては決して間違っていたとも思えない。鈴愛と津曲という不完全な2人でも2通りの正解を導いている。どちらも境遇や環境はよくない。でも肝心な部分からは逃げてはいなかったのだろう。

 

この物語の登場人物には欠点が多い。それが人を笑わせるようなものか、不快にさせるものかはその人物への関わり方によると思う。

主人公は空気を読まない。泣いている友達から零れ落ちた涙を見て蒸発するのを初めて見たと言う。師匠に友達がいないと決めつける。こんな人がまわりにいたら絶対関わりたくはない。いつなんどき自分やまわりの者が傷つけられるか心配だ。でもそういう人ってたまに核心をついてくる。

律は正直ではない。そのくせ自尊心を傷つけられるとキレるバーが低い。でも不言実行知らないうちに夢を叶えてくれる。ブッチャーはうるさい。菜生は良くも悪くも打算的。晴さんは家族思いだが心配性。宇太郎は子供っぽいがジャンピング土下座をする。弟はしっかりしてそうで危うい。仙吉さんは15分番組とは思えない尺で歌う。廉子さんは死んでる気がしない。ユーコは最初怖かった。ボクテは裏切っちゃったけどやさしい。まーくん、涼ちゃん、元住吉監督、100円ショップの店長等々。そりゃないだろ的なことを次々起こしていく。

確かにここまで問題ありな人たちに囲まれたら、バカ正直に生きなければ耐えられない。鈴愛の人生の歩み方は清々しい。耳が聞こえないのにさらに人の意見に耳を貸さない。律のアイデアには乗るが基本的に独断で進む。フィクションだからこそ見たい世の渡り方。現実的ではないからと否定的に見てしまうと厳しいが、ある女性の人生の半分として俯瞰的に見ればとても面白い話だと思う。漫画家、100円ショップの店員、実家の手伝い、独立開業。夢をみて現実を見て家族と過ごして自立する。会社員、アルバイト、会社経営、専業主婦それだけしかしたことがない人と比べれば、人生勉強量は半端ない。漫画が描けるお母さんってだけでも凄いのに。

 

 平成の出来事や問題を詰め込み過ぎたこの物語は、ハンデを持っていたり才能がなかったりする人が思うがままに生きてみたらどうなるかを表現した傑作だと思う。みんなが漫画家に憧れたわけではないけれど、夢に向かって正直に進んだらどうなるのかを教えてくれた。はっきり言って安定的な人生に比べれば大変だけど、本当は少し足を踏み入れてみたかった、一歩を踏み出せなかった道の向こう側を見させてくれた。なぜかその向こう側へ行けなかった後悔を、少しや和らげてくれたそんな物語だった。