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ドラゴンボール / 鳥山明

 

最近賛否両論に反応してしまう。いわゆる炎上に。

賛否の賛側か否側かは内容によってもちろん変わるけれど、今回は賛否どちらにも肩入れできない両方に反論アリと言った気持ち。

 

ことの発端は以下の記事

結論は「やや面白くなかった」ようだ。なかなかにハードルが高いw

 

作品が面白い面白くないの結果については好みの問題でもあるので仕方がないと思うし、読んだタイミングの影響は結構大きいと思う。ただその結論に至った理由が面白くないところが残念だった。自分とは異なる結論でも着眼点の違いで驚かせて頂けるかと期待したがそうではなかった。結論ありきで読んで楽しいわけがない。前述の半分青いでもさんざん書いたが、脳が面白くない側に肩入れし始めてアラしか見えてこなくなっている。物語を楽しむためには先入観は強制的にも取り払わなければならない。フラットな気持ちで読み始めてほしい。

 

しかしそのハンデがあっても覆せるくらいの面白さはあると思うのだが、面白くなかったようだ。1度読んでしまっているとフラットには入り込めないことは「はじめの一歩」の久しぶりの再読で感じたので、しばらく読んでいないドラゴンボールを再読したら今の自分がどう感じるかは分からない。でもどちらも雑誌をリアルタイムで読んでいたとき、初読のときは次週が楽しみで仕方なかった。少年誌に限らず次々に現れる強敵を倒していく流れは王道的でワクワクする。同じくらいの世代の有名作品はこのパターンが多い。キン肉マン、北斗の拳、スラムダンク、聖闘士星矢、ワンピース・・・挙げたらキリがない。しかしこのパターンにハメながらも消えて行った作品たちは山のようにある。逆に王道パターンではないけれど有名作品となるものもある。ハズレない設定だからとか王道パターンだからで面白い面白くないが決定づけられるなら人気作は簡単に量産出来ることになる。よく作品の批評で設定や世界観を上げているものを見るが、それは作者が決めた制限であり、その中でキャラクターをどう動かすか何を話させるかによって全く評価は変わるはず。悟空とブルマとドラゴンボール7つを与えられたって、誰もがあのストーリーくらい面白いものを思いつけるかと考えれば明白だ。最近話題になった「大家さんと僕」などはまさにそれに当てはまるもので、大家さんと自分というキャラ設定から二人が何をして、何を話すかだけでほぼ面白さを出している。

 

鳥山明は連載をやめたいことを公にしながら、この人気作を継続させたマレな人ではある。人気がなければなかなか出来ない。話は想定外の延長戦のため初期構想にはなかった展開やキャラクターを足していったのだと思われる。このつくり方をいきあたりばったりだと批判し、物語の奥行きのなさの要因として片付けるのには違和感がある。何をもって奥行とするのか。長い期間を要する伏線の回収などは展開を想定しておかないと出来ないものであるが、それが面白いか必要かは別問題。悟空がサイヤ人だったり、神様がナメック星人だったり、トランクスの話などは全て後付けの設定である。そのため「そうだったのか」という感じの驚きはほとんどない。肝心なのはそれを生かしてどう展開していくかであり、伏線回収をキーにするかちょっとしたサプライズにするか、はたまた使わないかは作者次第である。ミステリー、謎解き系のストーリーだと伏線の散りばめは効果が大きいと思う。設定が細かいほどそれを知った時の読者としての驚きや面白さは確かにあるが、それを奥行と呼べるのか。それから奇想天外さは綿密な構想がある方が大きい。思いつきと奇想天外さはむしろ相反するものだと思う。

 

上の批判以上に一切の具体的なことが書かれていない・・・。批判の記事の方がどちらかと言えばまだ意味は分かった。以下の抜粋はウケ狙いかと思うくらい中身はない。

『ドラゴンボール』の魅力は圧倒的なキャラ魅力に尽きるだろう。キャラクター一人ひとりが作品内で生きており、それを引き立てる物語があるからこそ愛されていないキャラクターが存在しない。極めつけに「超サイヤ人」に「かめはめ波」である。こんなん面白くない訳が無いだろ。登場する悪役キャラも魅力的で動機、目的、性格といったキャラクターとしての芯が通っている。

・・・何も言うことはない。

 

発端の記事は面白くない理由について的を得たような分析がないように感じたが、それに反論するドラゴンボールの凄さ的な意見も具体的な指摘をしている記事は見つけられなかった。あとから理屈付けしてはいるが、個人的な面白さであったり人気の大きさであったりというものは本来はいちいち理論的に理解して決められるものではなく直観的なことがほとんどだと思う。たとえば絵について言えば眉と目の接着範囲が広いこと。本来はおかしいのにカッコよく見せた鳥山明の発明だと思う。ドラゴンクエストのイメージとしても定着している。一時幼年誌等では似た描き方の漫画が多かった。誰もおかしいとはつっこまない。みんな理屈で見てはいないのだ。

 

 長々とそれぞれの批判の批判を書いてもドラゴンボールの凄さは伝わらないので、以下は自分が思う長所と短所を書きたい。あくまで後付けでだけど。前置きとして面白さとは万人共通ではなく、読み手の能力や人生経験、時代背景によるためドラゴンボールに限らず千差万別であること。それをもってこれだけの支持を何故集められたのかを分析したい。

鳥山明は純粋に笑えてドキドキして感動できる物語を、納得のいく作画で世に出したかっただけだと思う。それは既に前に出ているDr.スランプで市民権を得てはいたけれど、さらに世界に広がるくらいになったのは前衛的な発想に他ならない。たぶん理論的にこれが当たると思ってやったことではなく、結果的にそうなってしまったのだと感じる。

まず間口が広かったことがヒットの要因の入口ではないだろうか。ドラゴンボールが連載していた当時ジョジョやターちゃん、ろくでなしBLUESなど結構劇画タッチの漫画が多かった。それまでも北斗の拳や男塾など濃いイメージが少年マンガにはあったと思う。それに比べるとドラゴンボールはかわいい。特に初期は寸が短いキャラが多い。さらにテレビアニメの認知度もあり、少年や青年だけでなく幼年・女性も取り込んでファン層を増やしていったのだと思う。もうちょっと掘り下げると、鳥山明はスクリーントーンをほとんど使わない。いまでこそデジタルで簡単に貼れるだろうが当時の漫画家は大変だったと思う。でも均等に濃淡や模様を出せるのでほとんどの漫画家が使っていた。うまく説明できないが劇画タッチやスクリーントーン、少女マンガの背景のぼかしなどを多用すると作品がボケてしまう。鳥山明の絵は白の面積が多いが、黒はトーンを使用せずハッキリと色分けする。こうすると絵や作品全体も鮮明に見える。例えばジャンプのページをペラペラめくったときに目に止まりやすい。だから何だということだがこれが鳥山明の画力だと感じる。絵のうまさの究極は写真ではない。最近ネット上で写真と区別がつかないくらい精巧な絵を良く見るが、写真として見たら価値は無くなる。同じものなのに定義を変えたら価値が変わるものは偽物だと思う。丁寧さとリアルさとフィクション。目の止まりやすさと抵抗感の少なさは、多くのファンを引き寄せ離脱者は少ない。あとはマイルドな下ネタも間口の広さだと思う。子供ウケはいいし女性層の抵抗も少ない。

 

よく欠点として上げられる強さのインフレ。確かに初期の悟空が魔人ブーと戦ったら、小指の先だけですり潰されてしまう。悟空の成長に対応した強さの敵たちが絶妙なタイミングで常に現れる。少年誌の連載上仕方がないかと思うが、作者自身もキリよく終わらせたかった要因の1つではないだろうか。ただそれを演出するアイデアは凄かった。子供だましの安易な設定と今では思うかもしれないが「あと2回変身を残している」のインパクトは凄まじかった。気の存在、スカウター、スーパーサイヤ人など見慣れてしまえば薄れてしまうけれど最初はとても驚いた。ただスーパーサイヤ人2の存在感の薄さも半端ない。そして当時最も最先端をいっていたのは空間の表現だと思う。静止画のつなぎ合わせと思えないキャラクターの動き。奥行や広さがどこまでの続くような背景。空を飛ぶ視点が斜めになるところも細かい。こういったアイデアを随所にいれておくと読み手は飽きがこない。そして要となるストーリー。話の中心になると思われた「ドラゴンボール」はまさかの「パンティおくれー」で振り出しに戻る。その後は強敵によって殺されてしまった仲間の蘇生を行う道具になり存在感は薄れていく。フリーザ編では複雑に絡めてはきたけれど、ドラゴンボール内のドラゴンボール自体はそれほど重要なアイテムではない。話の主軸は各キャラのパワーアップの過程である。亀仙人の修行からはじまり重力や時間さえも変えられる場所で鍛え、同化や合体であっという間に強くなったりする。理屈もへったくれもない。ただこれが少年が読むと中2病全開で興奮するのである。ピッコロさんはネイルさんを吸収し強くなるのだけど見た目に一切変化なし。でも「すげえ」と思ってしまう。鳥山明の手のひらである。大人になって初めて読んでも同じ興奮があるかは分からない。でも所詮おなじ人間ならおなじ気がする。たぶん鳥山明は天才的な少年なんだと思う。勇気がどうとか仲間がどうとか言葉にしない。この文章を書きながら漠然と自分がワンピースにハマれなかった理由が分かった。大人になってからの一気読みだけど。

 

 結局自分でも何故「面白い」のかを具体的にうまく書けてはいないけれど、世界規模の人気漫画になった要因は鳥山明の天才的その場しのぎ能力だと思う。批判では欠点と指摘していた部分。ドラゴンボールに伏線など皆無。まわりくどい設定などなし。天賦の画力を持って少年たちを驚かせるアイデアを研ぎ澄ませた漫画家の傑作。あえて箇条書きすると以下になる。

①悟空の発明(特に顔、やさしさと怒りのどちらも抵抗感が少ない)

②空間、奥行きの表現。ファッションセンスもシンプルで嫌われにくい。

③黒を必要最小限にしているが濃淡はつけずハッキリと。漫画を読みなれてなくても、女子でも読みやすい。

④中2病的なパワーアップはするがネーミングはシンプル。おたく感は薄め。

⑤強さのインフレ問題は斬新修行で回避。ただし破綻寸前。

 

絵のうまさとか話の面白さって、これ書いてあらためて説明しにくいと実感。一言で言えと言われたら「パワーアップの期待感の演出の妙」だと思う。地球からフリーザの前に悟空が現れるまで、待ち焦がれた悟飯の叫びこそがそれではないだろうか。分かりにくw

 

ex.超劇場版のポスターの悟空の絵。自分はそこまでDB信者じゃないけど、なんか鳥肌たちそうなくらい凄いと思ったんだけどおかしいかな?シンプルなのにバランスの精度が半端ない。惚れる。

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