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修羅の門 / 川原正敏

2022年春ドラマはどれにもハマらず。1話も見逃していないのは「ふるカフェ系 ハルさんの休日」くらい。近年珍しい事態。遅ればせながら録画はしている「鎌倉殿の13人」はだんだん面白くなってきている。まだ木曾義仲出てきたところだけど。それにしてもタイトルの明朝体が美しい。算用数字も使われているし筆文字じゃないしなかなかに挑戦的である。同じ明朝でも「麒麟がくる」のクレジットは古臭くて重かった。オープニングが洗練されていて好みの感じだと観るテンションも上がる。

 

楽しめている民放ドラマがほとんどないのでネットで漫画を読むようになった。時代は変わり音楽はサブスク、漫画は電子媒体が主流になりつつある。電子といっても広告を見たら少しずつ読めるヤツをチマチマ貧乏臭く読んでいる。それでも少なくとも2~3話分は毎日進むので雑誌でリアルタイムで読むことを思えば格段に速い。この仕組みで販売会社や作者に入るマージンってどういう計算なんだろう。

 

今年に入って無料で読める分の最後までいったのは「アイアムアヒーロー」「鬼門街」、現在進行形で過去読んだことのあるものは「修羅の門」「修羅の刻」「海皇紀」「ゴリラーマン」「はじめの一歩」「ろくでなしBLUES」あとほとんど覚えていない「静かなるドン」、初めて読んでいるものは「弱虫ペダル」「監獄学園」「龍帥の翼」「センゴク」先日全話無料で読み終えた「ゴールデンカムイ」は素晴らしかった。

 

スマホ専用で新しく制作された漫画とかも読んでみたけれど、宣伝表紙はキレイなのに中身スカスカの作品が多く手を出さないことに決めた。韓国系の「ゴッドオブブラックフィールド」は縦スクロール漫画で転生系という今風の作品で戦闘シーンは秀逸だったが休載が長くもったいない状況。少しずつ新しい漫画や未読の作品にもチャレンジしていきたい。

 

一歩や川原正敏の作品が熱いことはご存じの方が多いと思う。そんな中で意外と言ったら失礼だけど静かなるドンの更新が何気に楽しみである。極道とカタギを両立させている時点で無理のある設定。これもキン肉マンと同じく些細な矛盾やザル設定は気にしないで読むべき作品。今じゃ描けないドギツい暴力表現やエロ描写、差別発言のオンパレード。いかにも昔の成人漫画といった雰囲気の作品。古臭さや安直さは否めないが主人公が総長に変わる様が段々絵も上手くなってきてスゲーカッコよいのである。学生時代に友人に薦められて少し読んだことがあったけれど、ギャグやエロ要素のある「サンクチュアリ」だとは知らなかった。

 

それでもやっぱり語りたくなるのは「修羅の門」 中学生の時に友人に教えてもらった。腕を振るわせて「無空波」をよくやっていた。デビューから間もない漫画家の作品、特に昔の漫画だとよくこの1巻で連載が続いたもんだと思うものが多い。のちの面白さを考えるとかなり粗削りでクオリティーが低かった人気漫画もたくさんあった。今まだ初期を読んでいる「ろくでなしBLUES」や名作「スラムダンク」などもその例。逆に言えば単行本で読むと徐々に絵が洗練されていく面白さも味わえる。そして修羅の門もその最たるものの一つ。はじめは少女漫画かと思えるくらいのタッチで、まさかキレキレの戦闘シーン満載の作品になるとは思えない。ただ川原正敏の凄かったのは必要最低限の線でそれらを表現してきたことである。

 

電子版で読んだ最近話題になった作品で、子供の頃読んでいた漫画は面白く洗練された印象だったのにガッカリしたものがあった。マンガなのにほとんど顔のアップだけ、背景も少なくそのほとんどの顔ですら手抜き感が出ていた。これならいっそ小説でいいのではと思ったくらい。一見手抜きのように見える川原作品だが印象は全く異なる。説明するのは難しいけれど、体の動きや周りの状況など読者がここはどうなっているのか疑問に思って余計な時間や感情に割かれることがない。最低限の線でありながら十分な情報が描かれている。そしてそのアングルや描き方の上手さは最高峰の漫画家だと思う。

 

1枚の絵で個人的に過去最も感動した漫画は川原作品にある。修羅の門の外伝「修羅の刻」にある陸奥雷の章で、主人公がアメリカ政府軍騎兵隊に一人で立ち向かうときの見開きページ。主人公の背中越しに見える迫る騎兵隊は地平線に黒塗りで小さく描かれているだけ。あとはモノクロなのに真っ青に見える空のみ。美しいのにこのあとの苛烈な戦闘を予感させる悲しさを表した素晴らしい見開きだった。もうここで終わっても良いくらいw

 

「修羅の門」は主人公の格闘技術が核となる作品。プラス人気作となったエッセンスは主人公の不敗を証明する意志の強さと残酷さにある。そしてさらにそれを引き立たせる役回りになっているのが兄の冬弥や雷といった陸奥を継がなかった優しい兄弟たち。はい、たぶんみんなが好きになるキャラクターです。陸奥の一族に生まれながら一子相伝のため陸奥の名を継がなかった彼らは、心理的にも物理的にも主人公を強くし助けることになる。冬弥の設定は初めからあったかは分からないけれど雷は後付けだろう。いずれにしても第三門も開けてほしいものである。