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すべてがFになる 森博嗣 辰巳四郎

最近あまりやらなくなってしまった「ジャケ買い」 この言葉自体がなんだか古臭いが他に表現が思い浮かばない。学生時代や社会人になりたてで時間を持て余していた頃にCDや漫画、小説などを予備知識なく店頭のPOPや装丁だけで買って帰り、アタリハズレを楽しんでいた。CDなどは帰り道に車のオーディオに入れてからアタリだったときの運転は最高だった。今ではインターネットが充実し試し聴きも試し読みもお店に行かずして良くも悪くも簡単に出来てしまう。

 

1997年~1999年頃。時代は世紀末。自分的ジャケ買い全盛期。CDは基本邦楽のみ、漫画小説はジャンルにこだわらず。いつも行く隣県の書店やCDショップに入り、己のジャケ買い眼と担当者のPOPを信じて買い物をする。これはというものを見つけ出すまでの楽しさと、その日の成果を確認するときの緊張感。今思えば余程ヒマだったのだと思うw 装丁と中身が必ずしも好みに合致するとは思っていない。あくまでギャンブル的な感覚だ。この頃で覚えているアタリCDは吉田直樹、The Water Of Life。漫画は多重人格探偵サイコ等。これは紹介だったかな。

 

そんな中でやはり最大の大アタリは森博嗣だったと思う。彼の小説を紹介するうえでまさかの装丁の話。ただ自分の中では彼の作品との出会い、エピソードゼロとしては外せない出来事だった。森博嗣の小説のまず目につく特徴としてはタイトルに手を抜いていないこと。ジャケ買いならぬタイトル買いしてしまいそうな美しく洗練された文字列。中でも 封印再度-Who inside?-は見事。それでも第1巻としてのインパクトを考えると「すべてがFになる」で始まることは英断だったと思う。というのも初めの何作かは既に刊行前に完成していたらしく、なおかつ話の時系列的にはFは最初ではない。でもあえて最初に持ってきたらしい。そしてそんなタイトルたちを活かした装丁。今見ても20年以上前のデザインとは思えない。フォントや色、構成など全く色あせていない。

 

デザイナーは辰巳四郎という方で数々の装丁やイラストを残された方である。既に亡くなられている。どの作品も前衛的でカッコいいのだが、不思議なのは他の作品と比べるとS&Mシリーズの装丁は古さを感じさせない。素人的に言えば作風が違う。まるで長く増版されることを想定したようにクセが少ない。森博嗣が装丁に言及しているものは見たことがないので分からないが、おそらく偶然だったのだと思われる。ただ個人的には強烈なインパクトを持って飛びこんできた。

 

初めての出会いは1998年。既に7作目「夏のレプリカ」まで刊行済み。新卒の新入社員として入社前に売り場の見学レポートの提出を言われていた。あくまでお忍びのため先輩社員に悟られないように店内をチェック。たまたま身を隠した書店の一画が新書ノベルズコーナーだった。そこには刊行済みのS&Mシリーズが整然と平積みされていた。それまで読む小説は主にハードカバーか文庫で読むことが多く、新書判は「新宿鮫」くらいしか読んだことがなかった。その頃はなんとなく新書にマニアックなイメージがありあまりチェックはしていなかった。しかし私の社会人1年目は森博嗣の小説によりノベルズ一色に。もともと学生時代は小説自体を読む頻度が少なかったし特にミステリーは選んで読むほどではなかったのが、これを境にミステリー小説を好んで読むようになる。

 

正直なところ読み物に装丁の良し悪しは求めていない。矛盾しているかもしれないが、カバーや装丁は所詮物語の入れ物のガワだと思っている。むしろ小説の場合は装丁で余計なイメージを付けられても困る。ジャケ買いをするということは外見と中身のセンスが近いことへの期待だけで、中身が分かってしまえば何でもよい。森博嗣のノベルズの場合はとんでもない物語がクソカッコいい表紙をまとっていたというだけ。小説とは既に関係なく装丁という独立した作品として素晴らしい。かといってインテリアのように家で並べて面陳したいわけではない。カッコいいものは「ある」というだけで気分が良いのだ。

 

1つ言えることはこの装丁でなければ森博嗣作品を手に取らなかった可能性は極めて高かった。そしてその時訪れた今はない書店の新書担当者がこのシリーズを平積みしていなければ目にすることもなかったと思う。物語と自分を結びつけた装丁は、物語の宣伝媒体としてではなく1つの芸術作品として私の足を止めさせた。

 

最近はご無沙汰の「ジャケ買い」でこの作品のような衝撃を久しぶりに味わってみたい。コロナが落ち着いたら書店巡りをしようかと思う。

 

森作品の感想についてもいつか書きたい。

意外と何年か前にやってたドラマは配役も音楽も良かった。

 

ちなみに過去完全にインテリア的にジャケ買いしたのはヴィレッジヴァンガードで買ったCD「ビレバンのソカバン」貴重なよしもと氏のイラストに惚れる。