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耳をすませば / 柊あおい

調べてみると出会いは平成元年のことだった。

 

原作の10年後を描いた実写映画化の発表があり、30年以上前にこの作品を読んだ時のことを思い返してみる。もしかしたら記憶違いがあるかもしれないが何故か痛烈にこの漫画に惹かれたことは覚えている。

 

これまでほぼ少年漫画のことしか記していない私だが実は少女漫画への抵抗もほとんどない。それは妹がいたからだ。小学生の頃からお互い何かしらの月刊漫画誌を読んでいて私はフレッシュジャンプだった。後に廃刊になるので月ジャン月マガも読むようになるのだが妹の方はりぼんだった。妹がジャンプやマガジンを読んでいた記憶はないが、何故か幽遊白書にハマっていた時期があったことだけうっすら覚えている。今のように漫画喫茶があったり図書館に漫画が置いてあったりはしない頃なので手元にくる漫画は貴重である。学研の歴史漫画でも少女漫画でも読み漁っていた。教科書全部漫画にしてくれたら吸収率は格段にアップするのにといつも思っていた。

 

読み始めた頃のりぼんのラインナップとしては「有閑俱楽部」「ときめきトゥナイト」なるみ編、「星の瞳のシルエット」「ねこねこファンタジア」「お父さんは心配性」そしてアニメ化前の「ちびまる子ちゃん」などが記憶にある。初めの頃はコメディ系や魔族戦闘系(1作のみ)が面白く正直小学生の自分的には柊あおいは苦手だった。ちょうど平成元年なら新連載「耳をすませば」の主人公「月島雫」は私と同じくらいの年齢だったことになる。あまり意識はしてなかったのだがそれで感情移入しやすかったのだろうか。それにしても最初のインパクトは主人公がかわいくない。コメディ系を除けば基本的に少女漫画の主人公は不細工と罵られても本当の不細工は登場しない。そこまで少女漫画の私の経験値が少なかったからと言えるがこれが主人公なのかと驚いた。今見返したらかわいらしく描かれているのだが、そのときは丸顔で満面の笑みの雫がこれまでにない不思議な主人公に見えて1話で引き込まれてしまった。自分の中では良い点だったのだが世間的にはこれが最大のマイナスだったのだと思う。早々に連載は打ち切りになってしまう。記憶にあるくらいぐにゃっと笑う雫が読み返しても見つからないのは何故か分からないが喜怒哀楽の激しさは色あせていない。これまで読んできた面白い少年漫画と比べても遜色のない魅力を持った異性の主人公に初めて出会ったような感覚だった。まさかの4話終了には驚いたのだが、ちょうど1巻の読み切りになったことで自分の中で伝説化してしまい自分で買った唯一の少女漫画になった。ジブリでアニメ映画化する5年以上前の出来事。映画では普通の少女漫画風というかジブリ風になってしまってマイルドに感じた。すぐ怒りすぐ泣きすぐ笑う原作雫が好きだった。

 

ストーリーはそこまで奇をてらったものでもなく激しいものでもない。どちらかといえば平和で、今の時代と比べたら恵まれた環境の中でおきるぬるい恋愛話といった感じだ。中学生の自分がそれに憧れたわけでは全くなく、そこは冷静に設定としか感じていなかった。では何に引き付けられ面白かったのか。それはボケの雫とツッコミの天沢聖司の描き方だと思う。1巻で終わってしまった心残りは2人の恋愛感情が急速過ぎたところ。関係の浅い段階での2人の掛け合いをじっくり読みたかった。最初は図書館で見つけた天沢聖司の名前からミステリーが始まるとばかり思わされるが、天沢航司や雫の姉にもすぐに雫のことがバレてしまう。物語のクライマックスは2人の恋愛ではなく天沢聖司の「じゃあ自分で書いてみれば?」だと思う。1巻という短時間で雫の物語好きなキャラを表現し、いきなりその気持ちが離れそうな告白をしたかと思えばツッコミ聖司の指摘で自分で物語を書くというアドバイスで解消することに気づく。意外と天性の物書きはこのタイプが多いのかなと思う。アイドル選考についていった友達が合格するような己の才能に気づいていないという漫画的な主人公。好きなこと以外には鈍感で周りの視線にも無頓着。少しは雫のように生きたい、生きなければならないと今ではそう思わせてくれる漫画だと思う。

 

1巻で終わったからスッキリとしてダレる部分が皆無だったといえるが、お姉ちゃんや絹ちゃんの描写をもう少し見たかった部分もある。最初から人気が出て連載が長期化したバージョンのこの作品も見てはみたかった。でも実は未だに漫画や映画のそれぞれに存在する続編は見てはいない。なんとなくこの物語は1巻で終わらせることがベストなんだろうと思っていた。そこに実写映画化のニュース。これを目にしてしまう前に既存の続編は消化しておいた方が良いだろうか。