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監察医 朝顔 感想⑨ 最終話・・・そして

震災を風化させないという意思が制作陣からビシビシ伝わってきていたのに、批評していた自分が他人事だったことが分かった。大河ドラマ「江」は東日本大震災の年の放映だったことが記憶から消えていた。20人が亡くなった北海道の豊浜トンネルの崩落事故の時は「秀吉」だったことは鮮明に覚えている。規模で比較することは不謹慎だが、なんとなく震災とその時放映していた大河ドラマがリンクしていない自分が情けなかった。大変なことが起きたという衝撃も悲しみも所詮偽物の野次馬根性だったようだ。そんな人間の最終話の感想です。

 

桑原君が死ぬかもの予告はいらなかった。少し過剰演出気味でのあおりは「監察医朝顔」には似合わない。衝撃展開を用いずに法医の厳しさと震災の悲しみを伝える稀有なドラマなのだから。全話通して今回の月9は丁寧だった。解剖シーンに遺体は一切見せない。震災の場面もケガ人や被災現場は映さない。徹底した制約は演出を制限するものではなくむしろ表現を集中させ妥協を減らす。それを体現したかのような出来だったと思う。最終話の土砂災害現場も収容所も遺体の鼻先が映し出された程度で生々しい表現は一切なかった。実際の現場の汚れや臭いや混乱具合などは本来見ていられるレベルのものではないと思う。でもそれらを省くことにより伝えられる現実もある。

 

純度100%のノンフィクションを見せてもむしろ視聴者の心に届かない可能性は大きい。解剖の現場や大規模災害の現場、収容所もよりリアルに悲惨に見せることは出来たと思う。あえてそこはきれいに見せることで我々は朝顔や平の気持ちの変化に集中することが出来た。朝顔や平が目の前で見ていることは何なのかは観ている者の想像力に委ねられる。茶子先生が東日本大震災現場で朝顔と平に救われたと最後に話していた。そういえば茶子先生は本編では完全無欠の風来坊のようだったが、朝顔や平の心に寄り添っていた彼女もまた広い意味では震災の被害者であることを忘れていた。震災で直接被災された方だけでなくその身内、友人、知人そして救援や支援を行った方々もまた非現実的な状況を目の前にして心を壊した人も被害者だと思う。まさかのエピソード0が発表されたが茶子先生が感じていた東日本大震災も織り込んでいてほしい。

 

最終話も変わらずの構成を貫いていた。前半の法医パートは意外性はなかったが山倉係長や法医学教室の若手のいつもと異なる気持ちの動きが最終回っぽくて良かった。事件に携わる各専門家も犠牲者が多いといつもと同じ心持では動けないのだろう。それにしても桑原君は生き埋めもクラッシュシンドロームも塩素ガスもかわして無傷で生き残ってくれたことが予想外だった。こちらは最終回っぽくないw そして最後を締めくくる東北へ。朝顔がこれまでの経験によって実家の地へ降り立つことは出来るのか・・・。自力だけで歩きだすより娘や父夫が「ママ」「朝顔」と呼びかけた方がいい絵になると観ている人たちは思ったのではないかと思う。でも誰も手を貸さなかったことで朝顔は1つ乗り越えられたのだろう。でも母の死を乗り越えるには少しシンプル過ぎる気はした。そのバランスを取ってくれたのは柄本明だった。このまま終わったら最後としてはもの足りない感じだった。何もしてこなかった祖父と経験を積んだ娘の違いか。でもふとした拍子に途方に暮れる人、悲しみが蘇る人がほとんどだろう。大切な誰かを亡くした経験のある人は柄本明の演技に感情移入すると思う。自分も娘が生まれたときに祖父がいないことが寂しかった。娘がいない寂しさとは比較出来ないかもしれないけれど。

 

結局サプライズで来週に2時間あるようなので総評は視聴後にまた記したい。