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獣になれない私たち / 感想 総括

決して賛否両論になるドラマが好きなわけではないw

 

非現実的だと思って観ている人とリアルだと思って観ている人とまた真逆の感想が多く面白い。フィクションとはいえリアリティを如何に表現しているかという部分は、こういったドラマにとっては重要な評価点になる。それでも所詮見ている人は千差万別、想像力も人それぞれで、ドラマの出来事を違和感なく受け入れられるかどうかは結局見ている人次第になる。有給休暇を当然の権利で躊躇なく消化できる環境がある人は、休日も対応する晶の気持ちは分からないだろうか。付き合いを解消したら赤の他人に思える人は、元カノを自分のマンションに住まわせる京谷の気持ちは分からないのだろうか。自分と違うからリアリティがないというのは想像力の欠如で、こういう人もいるかもしれないとかこういう環境で育つとこういう考えになるかもしれないとか、もう少しキャラクターの思考設定に気持ちの余裕を持って観た方がよいと思う。そう思って観ないといけないほど変わったキャラクターはいなかったと思うが。みんな極端に沼にハマってる感はあったけれど。

 

断れないが有能な社員である主人公晶の前に、あの大声で理不尽な指示を出し会話が全く通じない社長がありえないという意見も多くあった。しかし現実にもいるし、あれを存在しないレベルだと思えるならば世間知らずである。リアルだと思えても不快感が拭えず観るのに耐えられないという感想も多く見られた。テレビドラマには詐欺師もいれば殺人鬼もいるが、観られなくなるほどのストレスは感じないはず。九十九社長の場合は声の大きさの物理的不快感と、理不尽さという精神的不快感の相乗効果ではないだろうか。人によってはどうしても受け付けない場合もあり得るリスキーな配役ではあったと思う。しかし晶の過酷さを表現する上で最も効果があった部分であったことも否めない。九十九社長のようなキャラクターは自分のことのようには受けとめず俯瞰した感じで観るのも、ある種ドラマを観るためのスキルではないだろうか。ただそういうことを思ってまで観ないといけないのかと言われると返す言葉はない。このシナリオにおいて必要なキャラクターではあったと思うので、彼だけのためにこの物語を楽しめないというのはもったいない気がする。主要キャラの晶、恒星、京谷、朱里、呉羽がみんな極端な性格だったが、このご時世そんな生き方をする人たちもいるだろうという感じで観られるかどうかが、この物語を楽しめるか否かの最初にして最大の関門だったと思う。

 

そこを通過できたとしても物語は大きくは進展しない。第二関門が地味なストーリー。キャラクターではふるいに掛けられなかった視聴者でも、おとなしいガッキーや屁理屈ばかりの松田龍平にギブアップした者は少なくなかったはず。各話終わりの感想などを見ているとそんな感じが多かった。自分的には真逆の感想だったのだけど。ガッキーや松田龍平のセリフには刺さるものが多かったし、演技に極端な表現はなかった分だけ言葉に重みが出ていた。正直分かりやすいエンターテインメント寄りの、勧善懲悪な話の方がストレスも解消するし気持ちがいい。同時期の下町ロケット・ゴースト/ヤタガラスは正にそんなストーリーでハズれる気がしない。でも今回自分の中では「けもなれ」に軍配を上げたい。それはエンタメ寄りな話だとどうしても「どうせ勝つんだろう」という少し大雑把な予想をしながら観てしまいがちでしかもその通りに終わる。「けもなれ」はさすがに最終回には一部あったけれど、通して予想しづらいというか予想をせずに楽しめた。言い換えると冷めずに観れた。小説で言えばミステリーや歴史小説のような大衆文学ではなく純文学の読後感に近い。地味だけど丁寧で刺さるシナリオと、主人公2人の張り切らない名演技のおかげだったと思う。

 

「不幸の背比べ」は前に進むためには必要だった。恒星が閉じ込めていた不幸も、晶に話したことで変わり始めたわけだから。今の社会で苦しんでいる人たちに見せたかったドラマなんだろうと思う。呉羽の会見での「結婚って、子ども作るためにするの?」は直接的だったけれど、生きづらくさせている要因は無意識で無自覚だということが伝わった。子どもが出来ないということにも配慮しろというのは難しいが、少なくとも謝罪会見に子どもを引き合いに出す必要性はない。我々が結婚会見などで子どものことを当然のように聞くものだと思い込んでいる部分は反省するべきなのだと思う。

 

最終話終盤、あいみょんの歌が流れてきたので5tapのシーンで終了と思わせられたのはうまかった。主人公2人がいなかったんだから気付けよといったところだが、2段構えのラストシーンは満足感が高かった。そして鐘はなったのか。また悪い癖でツッコんでしまうが、最後手はつながない方がよくない?ただ眺めて終わるだけの方が、その後の展開を描かなかった手法のメリットがより活かされた気がするのだけど。

 

5tapシーンラストの朱里と九十九社長は笑った。